阿漕荘の2人

サンタクロースの忘れモノ 2

紫子side

香具山 紫子は阿漕荘の2階にあがる階段を大急ぎで駆け上る

自分の部屋は左奥だが、
その手前のドアをノックする

「開いてるよ」

中から声がする

「ああ、寒い寒い、ぶるぶる」

紫子はブーツを脱ぎ、部屋の中に入る


「メリークリスマス!」

「クリスマスまであと2週間もあるよ」


コタツに足を入れて、寝そべっている
青年 練無 は大きな本を広げ、手には
サインペンをもっている


紫子はベット近くのヒーターのスイッチをつける



「何してるの?」

「見たとおり、コタツにあたってんの」

「帰ってくるなり、人の部屋に来てする?そういうの」

「うちんとこのヒーター、石油切れてんねん」

紫子が言い返す


「あーなんで、ヒーターってつくまで時間かかんやろ

もっとはよ、反応してくれてもええやん

時間の無駄やん

ああ、この時間があればどれだけ科学が進歩するんやろ

時代遅れにも、程があるやんか

ああ……、誰かエアコン買えよな……

どうも、貧乏人の友達ばっかであかんわ」

「しこさん、自分自身が暑苦しいからいいじゃん」


「なんかゆうたか、あーん」


「ほら、だんだん、暑くなったでしょ」


「もおう、こうなったらな、エアコン買うために、阿漕荘で株式会社でも
作るか。
一株500円で出資を募って、
一つの部屋にエアコンいれるんよ。
みんな、いくらなら出すかな?」


「裏のアパートには、けっこうエアコン入ってるよね

エアコンのある部屋から出て来た人を
マークして、チャンス見つけてお友達にでもなったら?」


「男やったらどうするん?」


「そんときはお色気作戦」


「そんな、姑息なマネできるかいな

だいたいな、お色気作戦?

言葉、古いで、れんちゃん」


「人のヒーター使うのだって、
けっこう姑息だよ」




練無は再びレポートをし始めた

紫子は近くにあったファション誌を
読み始めた

ふと気になって、練無を見た






れんちゃんって………



髪の毛サラサラやな……



ちょい茶髪入ってんのは


地毛なんやろうな…………



こうして、改めて見ると


目はクリッとしてるし


鼻筋いいし


まつげ長いし




綺麗な顔してんな…………



そういえば


この前の遊園地………


なんで手なんか繋いだんやろ



友達なら、普通なんかな………?



れんちゃんの手…………


大きかったな…………


男の子の手って感じやったし………



あれ?


なんか、うち、今………



あれ?


「………しこさん、見過ぎ」

練無がレポートから
紫子に目を移す

一瞬にして、練無と目が合う


「あっわあわ………ちゃうよ、見とらんし……………ちゃうから!!」

紫子は練無を見ていられなくなり
目線を外す



あれ?


なんか、うち、赤くなってるやん



やばい、これは


この顔、見られたら、あかん………


なんで恥ずかしいねん



相手、れんちゃんやろ



友達やんか…………



紫子は不意にカレンダーを見た

雪の中でかまくらを作る子供たちの写真の下に日付けが並ぶ



「そういえば、れんちゃん
クリスマスどうする?
コンサートでも行こうか?」



去年のクリスマスは
確か一緒にホテルのバイキングに行って
カラオケをしたことを
思いだした


実はすでに、目星をつけているクリスマスコンサートがある


紫子はかねてから練無を誘うつもりでいた


「……………イブの夜?」



「そうに決まってるやん」


「………………バイト入ってるんだ」



練無の予想外の言葉に唖然とする


「えっ!バイト!」


「うん」


「えっ……だって夜よ」

「夜からのバイト」


「変や、そんなん………なんでバイトなんて……………イブやろ」



「凄く時給がいいんだ」



「いや、金の問題ちゃうやん!」


紫子は乱暴にファション誌を閉じる



「買いたい服も化粧品もあるし………
お金の問題だよ」


「だって、うち………………クリスマス
れんちゃんと過ごすつもりで………」


練無はペンをテーブルに置き、
紫子を睨む

紫子は彼のその冷たい視線にドキリとして固まる

「あのね、しこさん…………
しこさんは別に友達なんだから…………
僕がクリスマスイブの夜を
どう過ごそうか
誰と過ごそうかなんて
関係ないでしょ


そもそも、しこさんと予定を組んでいたわけじゃないし

しこさんが怒る道理がないよ」


「そんな、だって……………去年は
一緒にバイキング行ったやん
………だから、今年もって」



「今年もって………それじゃあ僕らは
この先、ずっとクリスマスを一緒に過ごすの?

そういうわけにはいかないでしょ、
僕ら、もう大人なんだよ
お互いに恋人が出来れば
クリスマスどころか
こうやって僕の部屋に
しこさんを入れることも出来ないよ」


「でも、うちら友達じゃんか!」

「…………どちらかに恋人が出来たら
今までみたいにはいかないよ

自然と距離を置かなくちゃ」



「えっ…………」


「仕方がないよ
僕は男でしこさんは女だ」


「男とか女とか、れんちゃんはそういう考え方、1番嫌いやん!なんで!」


紫子は思わず、思い切り立ち上がる

自分でも何がしたいのか
何を言いたいのか分からない


でも確かに、練無の言葉は刃物のように
自分の心に突き刺さる


彼に見離されているように感じた



怒りと悲しみが
今にも涙となって溢れ出しそうだ



彼は冷たい目で
無表情で、言葉を続ける




「そうはいっても…………世間は僕らをそうは見ない

今だって、そうだ…………

そして、恋人が出来たら、どうなる?

僕らの友情は誰かを傷つけるだけだ」


紫子はもうこれ以上にないくらい
痛めつけられているように
感じた


既に、自分の知らないところに彼はいってしまっている


自分はまた1人きりになってしまう



寂しさで身体が震える

立つことさえままならない



「もう、ええ………………」



紫子はそのまま練無の部屋を飛び出した

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