阿漕荘の2人

サンタクロースの忘れモノ 5

練無side


「ビショップを3の5へ………」

今宵はクリスマス イヴ
恋人たちはこの聖夜に愛を誓う


僕と宮下さんはn大 記念会館で行われた
進藤助教授のクリスマス特別講座に来ていた


「貴方の番よ、小鳥遊くん」


「 ポーンを5の5へ」


「面白いでしょ、まさに進藤先生らしいわ
まさか、クリスマスに恋人とチェスをするなんてね」

「恋人じゃないよ」

「今夜だけです」

「進藤先生が各テーブルを見回って
一番面白い対局をした組が優勝なんだっけ?」


「そうよ………2人でしかできないわ」


「計算能力はどうして、欲しいの?」


「あら、チェスは計算が速い人が
勝つのよ、知らないの?」



「それじゃ、宮下さんの勝ちだね」

僕は生クリームとラズベリーソースがかかったケーキを一口食べる

このケーキは先生からのプレゼントらしい

今日、僕が一番貰って嬉しかったモノだ



テーブルの向かい側では、宮下さんが
イスにもたれている


「ポーンを3の7へ」



「ルークを6の2でポーンを取る」



「ねえ、女の子の話をしてもいい?」


「私以外の?」


「そうだよ」

「私、クリスマスに男から他の女の話を
されるの初めて」


「そう?何ごとも経験だよ、知は力なり」


「べーコンね、イギリス経験論の」

「ねえ、どんな気分?」

「なぜ、小鳥遊くんのケーキに毒を仕込まなかったのか後悔してます」


「ナイトを8の3へ、クイーンを取る」


「凄く好きな子がいるんだけど」


「小鳥遊くんが好きになる子なんて想像できないわ」

「どうして?」


「貴方の思考についていけないもの、
わたし、今、凄く大変なのよ」


「そうだね、僕らは今、チェスをして、恋話をして、ケーキを食べてる

同時に3つの事をしてるね」


「ルークを3の6へ」


「たぶん、僕の親友と好きな子が恋をする、ねえ、どうすればいい?」


「それ、予想?」

「そうだよ」


「外れるんじゃない?」


「でも、僕の予想が外れた試しがない」


「何ごとも経験です」

「6の7へ、クイーンでチェック」

「えっ?」

宮下さんが驚いた顔を向ける

「あと14手で、僕の勝ち」

「 ああ……そうね、負けたわ」

「ほらね」


「ああ…………うそ…………私、チェスで負けたことないのに………」

「何ごとも経験だよ」


「ああ、貴方って本当に強いわ
チェスで生きていけます、保証するわ」


「もう、生きてるもん」


「私の話をしてもいい?」

「断ってもするくせに」

ケーキをまた一口食べて
コーヒーを飲む

「私、実は恋人がいるの」

「……恋人がいるのに、クリスマスに他の男とチェスをするの?浮気だね」


「やきもちを焼かせてやりたかった」


「ふうん、なんで?」

「だって、ひどいのよう、

私という彼女がいるのに……クリスマスに、講座を入れて、他のカップルのチェスを見てるの」


「それって………………ああ、そうか、
キミだったんだあ」

僕と宮下さんはクスクスと笑いあった


「ねえ、どうやって落としたの
あんなカタブツ」


「教えない」


「ここまで話しておいて?ズルくない?」

「それくらいが丁度いいのよ
女の子の短いスカートと同じね
見えるか見えないかが丁度いい」

「これから、どうするの?」

「まだ、夜は始まったばかりだわ

そうね……先生を誘惑してきます」


宮下さんはイスを引き、席を立つ


「凄く素敵な夜だったわ」

そう言って、宮下さんは
バックから茶封筒をとりだし
チェス盤に置く


「お金はいいよ」

「そうはいきません
デートじゃないから」

「そうだね」

「そういえば、小鳥遊くんに言いたいことがあったの
負け惜しみみたいなんだけど………」


「なんだろう」


「私の負けは15手目です
小鳥遊くんの予想は外れたわ」

宮下さんはそう言って
先生に会いにいった
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