阿漕荘の2人

サンタクロースの忘れモノ 6

紫子side

紫子は目を覚ました


あれ?


外は暗い




今日はクリスマスイブやったな………



なにしてはったんやっけ?



えーと


あーそうや



阿漕荘のメンバーと


クリスマスパティーをしてはった



うーん



なんか、やたら寒いなあ



ここどこや?




「目覚ましたの?」

「あらまあ?森川くんやん」

自分はフリースをかけて寝ていた


「あら?なんや、ここ?公園?」


ここは野野崎公園

茅駅と阿漕荘の間にあり、朝は練無が根来機知英から少林寺を習っている場所だ



「そうだよ」


「なんで、こないとこに?

あれ?森川くんのとこで飲んでたんやないっけ?」


「他のメンバーはまだ飲んでるよ
香具山さんは飲みすぎだから外の空気を
吸わせようと思ったら………」

「どうしたん?」


「ブランコ乗りたいって言い出した」



「………乗ったんか?」


「うん、靴飛ばして天気占ってた」


正直、自分の酔い癖もここまでくると………呆れて何も言えへんなあ



「気持ち悪いなあ」


「飲みすぎだよ」

「やっぱ酷かった?」

「………」


「ああ、あかんわ………
やっぱ飲みすぎた………
みんなが飲ませるから」


「みんな、とめたよ
記憶を改ざんしないで」

紫子は目尻をつねる

すると、あることに気づいた


「あ、そうや、森川くん
うちのコンタクト知らへん?
無くなってもうた」

「知ってるよ、ここには無いけど」

「どこにいったん?」

「オールドの中」

「オールド中って、ボトルの中?」

紫子は聞き返す

「え?お酒の中にコンタクトが?」

「そう、2つとも」

「今も?」
「うん、溶けてなければ」

森川がため息をつく

「取り出そうと思ったけど、
お酒がもったいないからそのままにした」

「どうしてそんな意地悪を?
誰がやったん?」

「覚えてないの?」

「あれ?うち?」

紫子は顔をしかめる

「お酒に漬けておけば、汚れは取れるし、自分の目にもいいからって」


「うわぁ、目薬やないっちゃうの」

「帰ったら、大変だね」

「そうやなあ、目が酔っ払ってしまうな」


紫子と森川は公園のベンチに座っていた

阿漕荘に続く道路側を背にしている


「どうして、そんなに飲んだの?」

「酔いたいからや」

練無が今夜、例の美人とデートする
という話を聞いたのは森川くんからだった

どうやら、医学部内でも2人は何度か会っているらしく
噂になっているらしい

「なんで、バイトなんて、嘘ついたんや………

ええやん、別に、
デートやって言えばええやん………
なんで隠さなあかんねん…………」


「小鳥遊のこと?」

「なして、そんな友情にびしっと亀裂が入るマネすんねん!

なあ、なんで?
ただならぬ関係なん?
れんちゃんにどんな秘密があろうとも、
過去にどんな傷があろうとも、

うち、驚きません。
絶対に怒りません。

そんなことで悪い印象なんか持つわけないやろ!

でも、秘密は嫌や

あんなん、見てしまった以上、
ちゃんと知りたいねん」


「もう怒ってるよ」


「………だってえ………」





自分は間違っているのだろうか?



何がこんなに自分を怒らせる?



なぜ、悲しい?



今夜はクリスマスイブ



特別な夜だ



とても可愛い子だった



小さくて華奢な子だった



きっとあんな子がタイプなんだろう



自分とはまるで違う



なんでうちはこんな事思うんだろ



彼は友達やんか………


ああ………




「香具山さん………泣いてるの?」



「うち……………泣いてる?」


「うん」


「なんでやろ……」



「静かな夜は、いつだって、誰かを泣かせるからね」

森川は無表情でそう言った


「哲学者みたいな男やな」


「香具山さん…………」


森川は道路側を見ながら
紫子を呼んだ


「振り向いちゃダメだよ」


森川はどうやら
道路側の何かを見ているようだ


紫子も後ろを見ようとする

その時だ……




「ダメだって………」



背中に手を回され



引き寄せられる




何かが唇をふさぐ







それは冷たいキスだった
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