きみと駆けるアイディールワールド―青剣の章、セーブポイントから―
 歌い終わったあたしは、くるりと振り返った。
 ベンチに掛けた壮悟くんが、じっとあたしを見つめていた。ひざの上には、歌詞を表示させたコンピュータがある。
「どうでしょうか?」
「あんたらしいなって思った。うまく言えないけど、すげぇいい曲だ」
 よく晴れた日の屋上の、ガラスドームの向こうに透き通る空は、浅葱色と呼ばれる色に似ている。
 できたばかりの唄を真っ先に聴いてほしくて、あたしは壮悟くんを屋上へ連れて来た。『花・夢・哀・愛―ハナユメアイアイ―』と名付けた唄だ。
「もうちょっと歌い込んだら録音して、ピアズの管理部に、新曲として申請します」
「またハイエストなんだろ? この異様に速いテンポと、途中に入る減速。こんなの、おれじゃ手に入れられないんだけど」
 壮悟くんはふてくされた顔をした。コンピュータをひざから下ろしてベンチに置く。
 今日の壮悟くんは、カッターシャツにチェック柄のズボンだ。緩めのネクタイが気だるげだけれど、ニット帽には妙に似合っている。
 昨日から、壮悟くんも制服ごっこに加わってくれた。壮悟くんの服は、本物の高校の制服だった。入院が決まって通信制に切り替えるまでは、普通科高校に通っていたんだって。
 壮悟くんが盛大にため息をついた。
「あのステージの配信、来月の予定だったのに、二ヶ月、先送りだってさ。手を加えるべきとこが多すぎて、今、てんやわんやだよ」
「そうなんですか?」
「ここまで口うるさいテスターは前代未聞らしい。揃いも揃って、注文が多すぎんだよ」
「えっ、あたしたちのせい?」
「京のマップをもっと細かくしろだの、歴史的用語の辞書ツールを付けろだの、斎藤のスパイ関係の伏線が弱いだの、土方歳三のラストまで見たいだの、永倉新八を出せだの、自分の唄をステージ曲にしろだの、隅から隅まで好き放題に言いやがって」
 不機嫌そうな壮悟くんとは裏腹に。あたしは笑ってしまう。
「だって、もっと見たいし知りたいんですもん。忘れられないくらいの世界だったんです。だから、できるだけクォリティを上げてほしくて」
「わかってるよ、そのくらい。だから今、必死で加筆してんじゃん。三ヶ月後には絶対、配信してやる」
「楽しみにしています。次のシナリオの執筆の依頼も来ているんでしょう?」
「次っていうか、世界観を共有した兄弟編だよ。土方と永倉の二本立てルートで。あの筋書きの中じゃ、土方と永倉は回収不可能だから」
「そっちもプレイさせてもらわないと。期待していますね。沖田さんも出ますよね?」
 壮悟くんは面倒くさそうにうなずいた。
「沖田を出さずに新撰組の話が成立するわけない」
「なるほど、そうですよね。あ、正式配信になったら、沖田さんの写真と動画、ちゃんとたくさん保存しなきゃ。保存ボックス、空きがあったかな? 拡張したほうがいいかも」
 あたしがウキウキしていると、壮悟くんは、笑うのとは違うやり方で、目を細めた。
「あのさ、それ、ムカつくんだけど」
「え? 何がですか?」
 壮悟くんはベンチから立ち上がった。まっすぐ歩いて来て、あたしの正面に立つ。深く黒い目が、あたしを見下ろした。
「沖田沖田って、そればっかり。気に入ったのはわかるけど、目の前でしょっちゅう言われるとムカつく。バカバカしい話だけど、嫉妬すんだよ」
「嫉妬って、誰が誰にですか?」
「だから、おれが沖田にだよ。おれ、一応あんたにコクったんだぞ。完全に無視してんだろ? それ、どうなんだよ?」
 普段、血の気の薄い壮悟くんの頬が、赤くなっている。あたしも頬が熱い。心臓が駆け出している。
「だって、い、一応じゃ、その……きちんと、言ってもらわないと」
「言えばいいのか?」
「あ……は、はい」
「ちゃんと返事しろよ」
「わ、わかりました」
 壮悟くんは、吸い込まれてしまいそうなくらい、真剣な目をしている。
「おれは、遠野優歌のことが好きです。白血病が治ったら、付き合ってください」
 胸の鼓動が熱くて速い。のどの奥に、くすぐったいときめきが生まれて、しゅわしゅわと弾けながら染みていく。
 今すぐ抱きしめられたい。
「どうして、治ったらなんですか?」
「そのほうが治療に本気になれるから」
 あたしの未来の彼氏さんは、いきなりわがままです。その気になった女の子を待たせるなんて。
 だけど、許してあげます。本気で生きてほしいから。
「わかりました。治療、頑張ってくださいね」
「その返事の意味って……」
「もちろん、嫌いじゃないって意味です」
 壮悟くんが目を見張って、そして、子どもみたいに無邪気に笑った。

【了】

BGM:
BUMP OF CHICKEN「バトルクライ」

respect for:
沖田総司(1844?~1868)
斎藤一(1844?~1915)
and
新撰組
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