指先からはじまるSweet Magic
しかも、朝一で提出しなきゃいけなかった出張報告の存在を、完全に失念していた。
そのせいで、課長にお小言を言われ続けたあの無意味な十五分間も計算外だった。


それも、ボーッとしてた私が悪いんだけどさ……と軽く自分を叱咤してから、肩を竦めてパソコンモニターをチラッと眺めた。


話し掛けられたことで、更に集中力は途切れてしまった感じがする。
長谷さんも今日中でいいって言ってくれてるし、ここで一度休憩しておこう。


そんな私の思考を見透かすように、長谷さんが自分の腕時計に目を落とした。


「あ、もう昼だね。どう? いつものお礼に、ランチ奢るよ」

「えっ」

「出張も付き合わせたのに、酒の一杯も行けなかったから」


なんだかずずっと身を寄せられて、私は反射的に椅子ごと距離を離した。


仕事が早い、は褒め言葉と受け止めても、ランチ奢るよ、はありがた迷惑だった。


長谷さんは二ヵ月くらい前に転職してきた人だけど、ちょっと馴れ馴れしくて距離感近い。
四国出張だって、ただのアシスタントの私が出向く必要はなかったと思うのに、ゴリ押しされて同行することになってしまった。


良く考えたら、ランチで社員が出払ってるオフィスで近寄って来たのだって、最初からランチに誘うのが目的だったんだろう、と気付いた。
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