指先からはじまるSweet Magic
なんとも言えない気まずい空気が、私と圭斗の間に流れ込む。


ここから車でせいぜい二十分の距離だとわかっていても。
閉ざされた空間に二人きりになると思うと、あまりに痛い空気だった。


「……私」


電車で帰るね。
そう続けようとした私を、一瞬早く、圭斗の明るい声が遮った。


「ほら、乗って! 大丈夫、超安全運転するから」

「えっ」


無理矢理テンション上げた声に勢い付いたかのように、圭斗がグイグイと私の背を押した。
そのらしくない強引さに戸惑いながら、私は助手席に乗せられて、その上バタンとドアを締められてしまった。


「ちょっ、圭斗っ……」


慌てて窓から圭斗を見つめて、その視線はフロントをグルッと回ってそのまま運転席に到達する。


軽く車体を揺らして、圭斗も運転席に乗り込んだ。
そして、フッと微笑みながら私に視線を流して来る。


「里奈、シートベルト」

「あ……」


静かで穏やかな言い方なのに、なぜか有無を言わせない声。
同じ動作を繰り出す圭斗から一瞬遅れて、私はとても素直にシートベルトを締めていた。


微妙にずれたタイミングで、圭斗と私のシートベルトがカチッと締まる音がした。
次の瞬間、圭斗はキーを捻ってエンジンを駆けた。


お腹から響いてくるような、小刻みな振動。
圭斗はスッと黒縁の眼鏡を掛けて、サイドブレーキを解除した。
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