指先からはじまるSweet Magic
暗い車内に浮かび上がるインパネ。
そこに時折チラッと視線を向けながらも、圭斗は真っ直ぐ前を向いてアクセルを踏み込んだ。


ほんの少し、シートに背中が吸いつけられる感覚。


運転する圭斗をこんな間近で見たのは初めてで、それだけでいつもと勝手が全く違う。


圭斗が運転してる車に乗ってる。
ただそれだけなのに、見慣れないせいで、なんだか無性にドキドキしてしまう。


そんな私の視線を物ともせず、圭斗はさすがに慣れたハンドル捌きで細い路地をなんなく抜けると、広い三車線の道路にスムーズに合流した。


初めて乗った圭斗の黒いVOXY。
外からは何度も目にした車も、中から見ると全く見知らぬ空間だ。


思ったよりも殺風景で、後部座席に退かされた荷物を除けば、必要最低限の物しかのせてない感じ。
さっきから落ち着かない鼓動を誤魔化す意味でも、私は無駄にキョロキョロと車内を見回した
そんな私を横目で探って、圭斗はフッと口元を歪めて笑った。


「そんなに珍しい?」

「あ、いや……。ごめん」


行動を咎められたような気がして、私は身を縮ませた。
別に、と柔らかい声で呟いて、圭斗は前を向いたまま肩を揺すった。
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