指先からはじまるSweet Magic
スペイン風のタパスが売りの洋風居酒屋で、私と香織はかなり薄めに作ってもらったサングリアで乾杯した。
無事に出産したら、絶対にワインで乾杯しようね!と、悲壮な顔をして力む香織に、私は頷きながらぎこちなく苦笑した。


時間が早いせいか、それともまだ週の初めだからか。
店内はまだ空席も目立って、テーブル席についているのは、私達の他に二組のOLだけだった。


微妙に間隔の離れた席からも、時折笑い声と会話の断片が漏れ聞こえる。
むしろ、満席で賑やかになった方が、話題に気を遣わなくていいのかもしれない。


だからこそ、その話題をどのタイミングで口にするか悩む。
お酒が入った方が切り出しやすいけど、お酒の勢いを借りたらますます自分がわからなくなりそうだ。


だから私は少しだけ顔を強張らせながら、スッと背筋を正して冷静を保とうとした。


「香織、……あのね」

「ん? なあに、怖い顔して」


お通しのブラックオリーブをフォークで口に運びながら、香織が首を傾げた。


「……香織さ。圭斗に髪洗ってもらったことある?」


私の言葉にきょとんとした香織からは、その反応の奥でどう思っているかわからない。
やっぱ唐突過ぎたか……と口を噤むと、香織は短く、ない、と返事をした。


「だってシャンプー専門のアシスタントいるし」

「じゃあ、その人でもいい。その……気持ち良すぎて無防備になっちゃったりとか、しない?」


は?と、香織は意味わからなそうな顔をして私を見つめた。
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