指先からはじまるSweet Magic
シャキシャキ……と、丁寧に髪を滑る鋏の音が、静かな空間に小さく響く。
白いナイロン製のケープを掛けた私が、目の前の大きな鏡に映っている。
緊張で身体を強張らせている私の横の空間に、真剣な瞳を浮かべた圭斗が立っている。
鏡の正面だけをジッと見つめているのが照れ臭くて、私は鏡越しに店内を目線で窺った。
大きな鏡に面したカットチェアーが四つ並んでいる。
その一番左端。私の頭上の電気しか灯っていない。
薄暗い空間は、大きな窓から射し込む満月の光が補ってくれていて、店内に置かれた物をぼんやりと青白く浮かび上がらせている。
隅っこに置かれた段ボールの山。
私が座るチェアー以外の物には、薄く白いビニールが掛けられている。
私が座る前に、このチェアーだけ、圭斗がビニールを剥いでくれた。
正真正銘、このチェアーに……ううん、まだ完成していないこのサロンで髪を切ってもらうのは、私が初めてだってことが感じられる。
私の髪を真剣に見つめて『仕事』をする圭斗の瞳。
この距離で髪に触れてもらったことはたくさんあったのに、私はそんな圭斗の瞳を初めて見た。
今まで知らずにいたことが、とても申し訳なく……そして、勿体ないとすら思える。
「……ね、圭斗」
これから圭斗が自分の手で創り上げて行く、本物の魔法の空間。
そこにいち早く足を踏み入れたことの意味を、心の中で噛み締めながら、私は目を伏せて呼び掛けた。
「ん?」
毛先のレイヤーを微妙な加減で入れながら、圭斗が声だけ私に返して来る。
「ごめんね」
静かに呟くと、圭斗の手がピタッと止まった。
白いナイロン製のケープを掛けた私が、目の前の大きな鏡に映っている。
緊張で身体を強張らせている私の横の空間に、真剣な瞳を浮かべた圭斗が立っている。
鏡の正面だけをジッと見つめているのが照れ臭くて、私は鏡越しに店内を目線で窺った。
大きな鏡に面したカットチェアーが四つ並んでいる。
その一番左端。私の頭上の電気しか灯っていない。
薄暗い空間は、大きな窓から射し込む満月の光が補ってくれていて、店内に置かれた物をぼんやりと青白く浮かび上がらせている。
隅っこに置かれた段ボールの山。
私が座るチェアー以外の物には、薄く白いビニールが掛けられている。
私が座る前に、このチェアーだけ、圭斗がビニールを剥いでくれた。
正真正銘、このチェアーに……ううん、まだ完成していないこのサロンで髪を切ってもらうのは、私が初めてだってことが感じられる。
私の髪を真剣に見つめて『仕事』をする圭斗の瞳。
この距離で髪に触れてもらったことはたくさんあったのに、私はそんな圭斗の瞳を初めて見た。
今まで知らずにいたことが、とても申し訳なく……そして、勿体ないとすら思える。
「……ね、圭斗」
これから圭斗が自分の手で創り上げて行く、本物の魔法の空間。
そこにいち早く足を踏み入れたことの意味を、心の中で噛み締めながら、私は目を伏せて呼び掛けた。
「ん?」
毛先のレイヤーを微妙な加減で入れながら、圭斗が声だけ私に返して来る。
「ごめんね」
静かに呟くと、圭斗の手がピタッと止まった。