指先からはじまるSweet Magic
あんなことの後で、本当は顔を合わせるのも緊張するのに。
そんな中での私の行動。
その意味は、探らずに、察して欲しい。


「……里奈」

「ず、ズルいよ、圭斗っ……」


胸に込み上げて来る想い。
私はこんなにいっぱいいっぱいなのに、圭斗はどうしてこんなに涼しい顔をしてられるんだろう。


こんな私に、誰がしたと思ってるの……。


悔しくて、寂しくて、情けなくて、ジワッと涙が浮かんで来た。
こんなことで泣きそうになっているのを知られたくなくて、私は花束から顔を上げられない。


「……里奈」


伏せた瞳に、圭斗の靴の爪先が割り込むように映った。
同時に、確かに近付いた気配に、ドキンと胸が騒ぎ出す。


「サンキュ、里奈。すごい嬉しい。……だから、切らせて欲しい」


そんな優しい言葉に導かれるように、私はそっと顔を上げた。
そして、でも、と呟く。


「……仕事でミスっちゃって、間に合わなかった」


ズッと小さく鼻を啜りながら小さな声でそう言うと、圭斗も軽く、うん、と頷く。


「最後じゃなくて最初にして欲しいから」

「え?」


謎々みたいな圭斗の言葉に、私はおずおずと顔を上げる。
涙目で見上げた圭斗が、ニッコリと私に魅惑的な笑みを浮かべた。


「俺のサロンの、一番最初のお客さんになって欲しいから」


そんな言葉と同時に、圭斗が私の腕をグッと強く引っ張った。
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