初恋の甘い仕上げ方
「樹が萌のひとり暮らしを認めるなんて、あいつバカじゃないの? 理解できない」
兄さんへの不満はまだまだ続いていて、本当にデザイン界の顔と言われている人なのかと笑えてくる。
雑誌で見せる整った顔はいつも優しくて口元も上がっているというのに、私と会えばいつも小さなお小言ばかり。
私が大学に入ってからそれはとくに顕著で、兄さんや父さんよりも私に厳しく接するようになった。
大学時代には、サークルの仲間と飲んだ帰りにたまたま会った翔平君にその場で叱られ、二次会に行くなんてもってのほかだとそのまま家に連れて帰られたこともあった。
多少酔っていた私は気が大きくなっていたのか、普段は口にしないような言葉をつぶやいては翔平君に抵抗したけれど効果はなくて。
タクシーが家の前に着いた途端、あらかじめ連絡を受けて玄関で待っていた兄さんに引き渡された。
『大学の友達と飲むくらい、いいだろ?』
翔平君に無理矢理連れ帰られた私を不憫に思った兄さんが呆れたようにそう言ったけど、そんな言葉は焼け石に水で。
『お前がちゃんと見張ってないから男どもに言い寄られるんだろ。何かあってからじゃ遅いんだからな』
あんなに怒った翔平君を、あれ以来見たことがない。
私と兄さんはその場でぴくりとし、直立不動のまま何も言い返せなかったっけ。
言い寄られていたわけではなく、仲間との宴を楽しく過ごしていただけなのに。
と言い返したくても言い返せない空気がその場を包み、一気に酔いも醒めた。