あたしと彼の物語





いつ通り越したのかもわからないまま丸く囲われている壁を伝ってあるく。



でもいつまで経っても入り口が見えなくて、壁をどんどん叩き出す。

自分でやっときながら品性がないなと思うよ。



しばらくしたら涙が溢れて。





壁の中にいる詩春を見つめると、詩春は優しく手を振るんだ。




笑いながら。





あたしは悔しくて、悔しくて、詩春に『ばか!』って言ってやりたい。


でもお互いの声は届いていないみたい。



向こうからは多分金魚みたいに見えてるんじゃないかな。

なにそれ、カッコ悪い。




自嘲気味に笑うと、詩春が何か言ってるようだ。

なにも聞こえない。




詩春の口の動きから言いたいことを読み取ろうとしても全然わからない。



でも、何か知ってるような気がする。




いったい、何を言ってるのかな。

思い出せない、思い出せない。


なんで詩春はあたしに手を振ってるの?



さよならなんてしないのに。


ぼーっと立っていると目の端の対象物が動き出した。




だからあたしはソレに吊られて頭を持ち上げた。


詩春が何処かに行ってしまう。



あたしは詩春を追いかけるために走り出すけど、目の前の壁に思いっきりぶつかる。




鼻から生暖かいものが垂れてくる。


多分鼻血なんだろうけどそんなものはどうでもいい。




もう遠くに見える詩春の背中を追いかけたいのに、いつの間にか出口がなくなった。


「詩春!詩春!!待って!まちなさいよ、しはるっ!!!」



届かない。届かない。




ーあんたは、遠いとこにいっちゃった、


















「ちぃちゃん!ちぃちゃん!!」




「………ん、」


「え、なに。ここどこ。ん?」




なんか詩春が両手にアイス持ってるんですが、、

あんたそんなに食べんの?

「んもぉー!ちぃちゃんがアイス食べたいって言うから食べに来たんでしょ!」



と言って片手に持っているアイスを渡してきた。

「あぁ、これあたしのか」と思いながらアイスを受け取る。



いそいそと公園のベンチに座ろうとする詩春をよそにアイスを一口食べると、ほんのにいちごみるくの味がした。



詩春が選んでくれたのかな、

あたしの好みをよくわかってる。



詩春は多分シンプルなソーダのシャーベット。





と、隣に座った詩春のアイスを見ると案の定大当たり。



なんだ。心配しなくても仲いいんだ。




そうだ。さっきの夢なんて忘れよう。

詩春とあたしが離れ離れになることなんてない。

きっとそうなんだ。



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