一年の華
***
「未琴、一緒にパソコン室行こ。」
翔に群がる女子達の行動が落ち着いてきた頃のことだった。
次の時間が移動教室のため、クラスメイト達が普通の授業よりも早く準備をする中、翔の言葉を聞いた周りの女子の視線には強い嫉妬心が混じっていることに私は気付いていた。
「私は御手洗い行ってからにするから翔は先行って。」
面倒なことは御免だと思い、さらっと翔の誘いを断ると、翔は私の真意を即座に読み取った表情を見せて、わかった、と答えた。
「ありがと。」
翔だけに聞こえる声の大きさで呟き、横を通りすぎてトイレに向かった。
トイレから出ると、ちょうど村瀬くんと寺岡くんが教室から出てくるところで、パソコン室に一緒に行くことになった。
「大変だな、宮代なんかに構われると。」
突然、村瀬くんが吐き捨てるようにそう言った。
今まで見たことのないその態度に驚きながらも
、普通だよ、と返しておく。
「佐々木と宮代って親しいわけ?仲良いよな。」
今度は嘲笑するように言った村瀬くんに疑問を感じながらも、質問には答えておいた。
「まあ、従兄だから。昔から一緒にいたからかな。」
「……え?従兄?」
そんな言葉が聞こえて横を見ると、寺岡くんがまだよく理解できてないような顔でこちらを見ていた。
その隣でも、言葉を失った村瀬くんが呆然としていた。
「うん。父の兄の息子。」
二人は私の顔をぽかんと見つめていた。
「隠してたんじゃないんだけどね。」
「…そう、なんだ。そっか。なんだ。そんだけか。従兄か。」
村瀬くんは自分に言い聞かせるように言った。
心なしか、歩調が速くなっている。
さっきの不機嫌はどこに行ったのかと聞きたいくらいの満面の笑みを浮かべていた。