一年の華
***
私は現在苛ついている。
さっきアキトに怒鳴られたからだ。
佐々木未琴を好きになるなんて絶対にありえないと言っただけ。
それだけなのに、アキトは今まで以上の剣幕で私を睨んでいた。
私とアキトは幼稚園の頃から仲が悪かった。
何かするたびに喧嘩をふっかけ、ふっかけられの連続。
昔はマサヒロが仲裁に入っていたが、今では既に諦められている。
そんな仲なのに、何故か高校までずっと一緒。
腐っている程度じゃない、腐りすぎている縁だ。
内心、私はアキトとの喧嘩は嫌いじゃない。
アキトと喧嘩していれば、ストレス解消にもなるし、喧嘩で頭をいっぱいにして余計な事は考えずにすむ。
でも、さっきみたいなマジギレは嫌い。
次会ったときちょっかいを出しにくいな、と思いながら四階の教室に戻り、汗を拭いて日焼け止めクリームを塗り直す。
昼御飯を食べる時間がどんどん無くなっていることに気付き、急いで教室を出た。
四階から三階に繋がる階段を駆け下りていると、三階を早足で歩く足音が聞こえた。
ちょうど三階に足をついた途端、足音の主が目の前を通り、私の存在も気付かずに階段を下りていく。
「…アキト?」
一瞬見えた横顔と後ろ姿は、紛れもなくアキトだった。
何かあったのかと思い、追いかけようとしたが、私はアキトが歩いてきた方向の事が気になった。
その方向にはアキトの教室がある。
私はできるだけ足を忍ばせて教室に向かった。
常備している手鏡がポケットの中でカチャカチャと音を立てていたため、ポケットを握りしめて固定する。
私はそっと教室を覗きこんだ。
(…嘘…っ!)
そこには、抱き合っている二人の男女がいた。
一人は佐々木未琴。
もう一人は、イケメンだと騒がれてる転校生の宮代翔。
私はすでにアキトのいない廊下を振り返った。
佐々木未琴のことが好きだというのは当たりだったのかもしれない。
手鏡を入れているのとは反対のポケットから携帯を出し、カメラ機能でピントを合わせた。
音が漏れるため、スピーカーを指で遮り、シャッターボタンを押す。
画面を見ると、そこには佐々木未琴を強く抱き締める宮代翔と、宮代翔の背中に軽く手を回している佐々木未琴の姿がばっちりと写っている。
私はすぐに忍び足で廊下を去った。
これは利用できるかもしれない。
もう一度写真を見てそう感じる。
私は緩んだ口元を必死に引き締めた。