一年の華
***
「お前どうしたの?」
ベンチに戻り、食べかけのパンを口に放り込んでいると、マサヒロに顔を覗き込まれたが、俺は素っ気なく顔をそらした。
「なんかあったか?」
大して心配しているようには聞こえないが、かけてくる言葉さえも煩わしくなり、無視を続ける。
少ししてからチラッと目線を横に向けると、マサヒロのほうも俺に構うのを諦めたらしく、無言で黙々とサンドウィッチを食べていた。
「……。」
「……。」
「……。」
「…天気いいな。」
沈黙が耐えきれなくなり、空を見上げたまま少しだけ話してみる。
「……。」
「いや、暑すぎるよな、やっぱ。」
「……。」
「あーいーうーえーおー。」
「……。」
自分の中で何かが切れる音がした。
「何か言えよ!俺だけ寂しいじゃん!友情が一方通行じゃん!!」
マサヒロに顔を向け、周りの目も気にせずに声を上げる。
「…………………。」
「すいませんでした!俺が悪かったです!俺がバカでした!だから喋ってください!お願いだから俺を寂しい男にするなあぁぁ!」
マサヒロの肩を掴んで揺さぶった。
「…一応言っておくけど、男の寂しさを満たせるのは女だから。男の俺にそんなもん求めんな。バカか?お前。」
ジロッと睨みつけたその目は、相手がまるでゴキブリであるかのような蔑んだ目だった。
それでも喋らないよりはマシなため、俺はマサヒロのご機嫌取りのためにニコニコする。
「……で、さっき何があったんだよ。」
マサヒロは再び俺に聞いた。
興味無さげな口調だが、もう一度聞くなんて、きっと面倒なことになる前に事を解決しようとしているに違いない。
マサヒロの友情なのか友情でないのか分からない友情に少し感謝しながら、俺はさっき教室で見たことを打ち明けた。
「…つまり、従兄妹関係であるはずの二人が抱き合う事が気になっていると。そういう事だろ?」
「まあ…そうかも。」
はっきり他人にそれを言われていじけた俺を見ながら、マサヒロはさらっととんでもない事を言った。
「言ってこれば?二人に。『お二人はどういうご関係なんですか?俺は佐々木のことが好きです。もし恋人じゃないなら、そういう行為はやめていただけませんか?』って。」
「…は?」
「うん。それがいい。どさくさに紛れて告白してこい。そしてフラれろ。それでこの件は無事解決。」
「ちょっと待てちょっと待てちょっと待て。…お前、なんで俺が佐々木のこと好きって知ってんの?」
勝手に自己完結して晴れやかな表情で立ち上がったマサヒロの腕を掴んでベンチへ引き戻し、顔を近づけて詰め寄る。
「お前は分かりやすいからな。結構丸わかりだったぞ?」
当たり前のようにそう言うマサヒロを殴りたくどころか、急にヘコんできた。
隠せていると思っていたし、マサヒロにも言うつもりは無かった。
なのに、俺は自ら態度でそれを示していたと言うのだ。
もしマサヒロのように佐々木も俺の気持ちを知っているとしたら、本気で死にたくなる。
恥ずかしさで顔が熱くなっていき、今出ている汗が気温のせいなのか体温のせいなのか分からなくなった。
「大丈夫だって。佐々木ならきっと優しくフってくれるよ。」
ポンッと肩を叩かれたが、何が大丈夫!?って感じだ。
既に佐々木にバレているとしたら、告白なんてしたくない。
分かりきっていることを改めて言うなんて恥ずかしいこと、できるはずがない。
教室で見たことも頭に残っていたが、俺の気持ちが佐々木にバレていないかが脳内のほとんどを占めていた。