一年の華
すれ違い
***
私は学校の帰り道、一人で下駄箱での出来事を考えていた。
佐々木未琴と宮代翔は、恋人ではなく許嫁。
ならば、あの二人の間に恋愛感情はないのかもしれない。
チッと舌打ちをして、溜め息をつく。
「あれ?ナツキ?」
振り返ると、下校中のアキトとマサヒロがいた。
「かなり久しぶりだよな。」
駆け寄ってきたマサヒロが懐かしい笑顔を見せた。
「だね。家も近くて学校も同じなのに、全然会えないから。」
「俺はお前に会わない高校生活が送れて、気が清々してるけどな。」
「それはこっちのセリフですぅ。てか、さっきのはマサヒロだけに言った言葉だからね。自分にも言われてると思うなんて、どんだけ自意識過剰なの?」
マサヒロとアキトとの会話は、私を幼馴染み3人でいた中学校生活に戻ったような感覚にした。
高校でも女友達はできたけれど、やっぱりこのメンバーが一番だ。
アキトに憎まれ口を叩き叩かれながら、幸せな気分に陥る。
「そういえばナツキ、彼氏は?」
マサヒロが突然そんなことを聞いてきた。
「いないよ、そんなの。」
「でもすごいモテてるって噂を聞いたけど?」
「好きな人がいないからね。」
「マサヒロ、ナツキのことを好きになるやつはキモいやつばっかに決まってんじゃん。そんなこと聞くのは野暮だって。」
アキトはマサヒロの肩に手を置きながら私を見る。
その言葉と態度に無性に腹が立った。
「昼ドラみたいな恋愛するアキトよりマシでしょ!?あんたがどれだけ佐々木未琴に本気かは知らないけど、あの子は絶対にあんたを選ばないんだからっ!」
「え、なんでお前知ってんの!?つーか佐々木は関係ねえじゃん!」
恥ずかしそうに目をそらすアキトはさらに私をムカつかせた。
「あんた、まさか宮代翔と佐々木未琴の関係を知っててあの子が好きなの!?」
「関係ってなんだよ!ただの従兄妹で…」
「あの二人は許嫁なのっ!!」
しまった、と思った時には遅かった。
口を開いたまま固まるアキトの顔は、ショックそのものだった。
「…あ…っ。」
脚が自然と二人から離れる。
私はくるりと体の向きを変え、家に早足で帰った。
傷付けた。
言わなきゃ良かった。
自分の部屋に閉じ籠り、声を殺して泣いた。