きれいな恋をしよう
 これまで、それほど長いつきあいでありながら、互いに恋愛の話にだけはならなかった。
 いつもくだらないギャグや下ネタで場をやり過ごした。
 話がそっちの方向へ流れそうになると、だれかが茶化した。

 それはそれぞれに、《正直どうでもいいんですよ、他人の恋愛なんて》という考えが、なんの不自然もなく存在しているからなんだと思う。
 そして、偶然そんな4人が集まったのだ。
 そんなだからきっと、まるでへたに口に出したら災いが起こるなにかの呪文みたいに、みんなその存在を知っていても話題に乗せることさえしなかった。

「男も女も、恋人ができると友人を捨てる」

 これはバイト先の店長のことばだ。

「なんか楽しそうだね」

 これはおれのことばだ。

「楽しいよ。顔、ニヤけそうだもん」

「……」

 ニヤけてるよ。

「おまえも好きな人作ればいいのに」

「手塚治虫なんか好きだよ」

 殴られた。

「そろそろ出るか」

 ニヤけるのにも飽きたらしいフミオが、伝票を広げすばやく自分の食べた金額を計算し、テーブルのうえにだれにともなくなげだした。
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