ツレない彼の愛し方【番外編追加】




「付き合って1年が経ったとき、綾乃が言って来たんだ。妊娠したって…。僕たち、まだ二十歳そこそこで二人とも学生だったからね、正直、僕は戸惑ったよ。綾乃は戸惑いながらも病院で貰って来たエコー写真を見せながら、とても嬉しそうだった。まだ形も何もわからない写真だったのに」

修二さんの目はとても悲しそうだった。



「友達にも親にも相談できず二人でその先のことを悩んだよ。もちろん…赤ちゃんの命を優先に、どうしたら良い方向へ話が進められるかって。でも学生だった僕は未熟でね、考えれば考えるほど、現実的に産んで育てるなんて難しいと思い始めて…自分の不甲斐なさが悔しくて綾乃に冷たい態度を何度も取ってしまったんだ。最低な男だろ?」

自嘲するような笑い方も端正な顔立ちを際立たせてどこまでも男前だ。



「そんな僕の態度で一番敏感になっていたのは綾乃で、精神的に不安定になっていたんだろうね…そんな母親の気持ちを悟って...赤ちゃんは自分から去ってしまった。彩乃は...流産してしまったんだ」

悲しみに打ち拉がれ目が少し潤んでいた。



「綾乃から流産を知らされた時、ショックだった。ショックだったのに...どこかホッとした自分がいた…最低だろ?」

悔しそうに顔を歪めた修二さん。



「綾乃は泣いてわめいて俺を責めたよ。赤ちゃんがいなくなったことにホッとしてるって。否定できなかった自分に嫌気が差した」

だってまだ二十歳そこそこの男の子だったんだもん。それは仕方ないと思う...


「それから綾乃とは逢わなくなった。交際も自然消滅。ただ従妹だから、一生、逢わない訳にはいかないことはわかってた。それから何年か経って、吉澤コーポレーション...叔父の会社の経営方針が変わってね、二人とも3年前に会社に戻されて再会した。僕と別れてから、綾乃の男関係が派手だとは聞いていたけど、自分には何もできなかった」

やっぱりどこかでずっと綾乃さんを気にかけていたに違いない。


「しかし隆之介さんとのことは真剣だと思ったから遠くから見守っていたよ。でも...それも僕の思い過ごしというか、勝手な思い込みだったみたい。隆之介さんと響ちゃんにひどいことをしたのも、あんなやり方で二人を傷つけたことも僕の責任だ。あんな風に綾乃を追いつめてしまったは全部、僕のせいなんだ。綾乃の心を傷つけたまま、まだ癒えてない責任を果たさないといけない時だと思った」



「修二さん…」



「響ちゃんが僕を名前で呼んでくれる声が好きだったよ」



「えっ?」



「響ちゃんには自覚が無いのかもしれないけれど、キミには穏やかな気持ちにしてくれる話し方と声が人を惹き付ける。僕は最初からキミの声と雰囲気に惹かれた。もっと早く出逢えたら、あんな出逢い方じゃなければ…

はは、なんか変な事を言ってるね。ごめん…

でも和泉さんにね、それは同情じゃないかって。響ちゃんを昔の綾乃に重ねて守ろうとしているんじゃないかって...ハッとさせられたよ」


そう言って、また視線を通りに向けて私から視線をそらせたまま少しだけ時間が過ぎた。
次に正面に座っている私に視線を向けた時には、もうすっかりいつもの修二さんに戻っていた。
キラキラした王子様スマイル。彼が次に放った言葉に少しだけ驚いた。


「今日、日本を発つよ」


「えっ?」






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