ツレない彼の愛し方【番外編追加】
「今回の件は、綾乃の父親やうちの母親も重く受け止めててね、家族会議…。綾乃のそばに今いられるのは僕くらいだし、良い機会だからニューヨーク支社へ出向して勉強もしてくるよ。綾乃ともちゃんと向き合って来る。あのじゃじゃ馬を扱えるのは僕だけしかいないと思うからね」
フッと笑って話す。
「そうですか…淋しくなりますね」
笑っていた目がじっと私をみつめて来た。
その視線が少し外の通りにずらしたと思ったらすぐに戻って来た。
「そういうこと、あまり男の人に言っちゃダメだよ。気を持たせちゃう」
そう言って修二さんは私の頭に手を延ばして来た。
ポンポンと小さく頭を叩いて、にっこりと笑う。
「えっ?」
さっきまでの優しい笑顔は消えて、ニヤリと意味深な笑い方に変わっていた。
と、同時に喫茶店の扉が開く。
「そんなに長い時間じゃないのにな…可愛くて仕方ないんだね、響ちゃんのこと」
修二さんがそんな言葉を言い終わる前に、私達のテーブルにズタズタと足音を立ててやって来る長身の男。それが誰だか顔を見なくてもわかる。
「そうなんですかね、ただ仕事をサボってるからご立腹なだけなんじゃないですか?」
「そうだ、いつまで遊んでるんだ、響!」
早瀬がソファに座っている私の横にドスッと座る。
「狭い!」
「もっとそっちにズレればいいだろ!
修二くん、響に気安く触らないで頂けます?」
「ははは…すみません」
少しあきれ顔で笑っている修二さんをよそに、早瀬はいきなり修二さんに頭を下げた。
「社長?」
「隆之介さん?」
私と修二さんが同時に声をあげる。
「あの時、響の妊娠に気が付いてくれてありがとうございました。そして、お義兄さんの病院へ連れて行ってくれて感謝しています」
「ああ…そんな改まらなくても。あれは病院を知らなくて、思いついたのが潤一さんのところしか無かったんです」
たぶん、あの病院に連れて行ってくれたのはそれだけじゃないはず。
綾乃さんの時もあの病院で診察したんだと思う。そして父親が早瀬だろうということもわかってて、あの病院を選んだはず。私からも頭を下げる。
「修二さん、本当にありがとうございました」
修二さんは少し困ったように笑っていた。
「綾乃からメールが来ました。今回のことをきちんと謝罪して来ました。修二くん、友人として一言だけ。綾乃を宜しくお願いします」
早瀬と綾乃さんの間にもきっと私の知らない絆があるはず。
でもそれを知りたいとは思わない。二人が過ごした時間を私が共有することは出来ないはずだから。
修二さんが私に好意を持ってくれたような告白があったことは嬉しいけれど、きっと綾乃さんを誰よりも大切に思っているはずだ。赤い糸はどこで絡み合って、どこでほどけて行くのかは誰にもわからない。けれど必ず辿り着く相手が待っているはずだ。
「わかってます」
と早瀬の言葉に短く答えた修二さんはどこか清々しい顔をしていた。
一度、壊れてしまった関係をまた繋げるのは簡単だとは思わない。けれど、日本を離れて環境が変わり、大人になった二人はなにかしら答えを出せると私は思う。
修二さんはフライトの時間が迫っているからと間もなく喫茶店をあとにした。