先生、私じゃダメですか?
誰かいるなら帰ろう。
そう思い、
私はドアの方に向かった。
「ねぇ? 」
ドアまであと少しのとこで
声をかけられた。
「何ですか? 」
「吉野……愛」
何で私の名前知ってるの?
振り返ったけど、
暗くて誰なのかさっぱりわからない。
私はゆっくりとその人に近づいた。
黒髪に切れ長の目。
スラッとした背の高い細身の体型。
「あぁ、やっぱり吉野だ」
彼は驚いた顔をしている。
「俺のこと、覚えてないの? 」
「知らない。人違いじゃーー 」
「違うよ。俺は知ってる」
彼は私の目をじっと見つめた。
彼の表情はあまりにも真剣で、
何だか気まずくて目をそらした。
「柊 柚月。今年転入してきた」
佐伯さんが言ってた人か。
あのときは
遠くてよくわからなかったけど、
こうして近くで見ると
佐伯さんの言っていた通りかっこいい。
「神田 柚月(かんだ ゆずき) 」
「えっ? 」
聞き覚えのある名前。
「これは中学の時の名前。思い出した? 」
柊は微笑んだ。
「おい、そこの二人。何してんの? 」
「し、渋谷……先生」
ドアの前に、
懐中電灯を持っている渋谷がいた。
「って、吉野さん? 」
渋谷は懐中電灯を私に向けた。