優歌-gental song-
「上手だった。

もっと言えば、上手下手は関係ないんだ。

歌を歌う、ということは、相手に想いを伝える、届ける、ということ。

きみの歌でこの子は泣き止んだ。

きみの歌はこの子に伝わった、届いたんだ。

だから、きみは…」


少々語りすぎたことが急に恥ずかしくなり、最後の方で口ごもってしまったぼくに、きみは優しく微笑んだ。



「あなたは、歌が好きなんだね」


その微笑みに、ぼくはハッとした。


彼女がぼくの隣にしゃがみこんだとき、ぼくは彼女のことを光だと思った。


けれどそれは間違いではなかった。


ぼくには彼女の微笑みがとても神々しく見えた。


輝いているように見えた。



ぼくの光だと、思った。




「わたし、優歌(ゆうか)。優しい歌と書くの」


...優しい歌。


まさしくその通りだと思った。



「ぼくは千尋(ちひろ)。千を尋ねると書くんだ」



素敵な名前だね、と微笑む優歌に、心臓が音を立てて心拍していた。



「よろしくね」



差し出された、白い細い指。



ぼくは緊張しながらそれを掴み、「よろしく」と微笑み返した。



柔らかな木漏れ日が、ゆらゆら暖かく揺れていた。



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