禁断のプロポーズ
食事を終え、茶碗を下げているとき、同じく下げてきた夏目が側に来て、小声で言った。
「さっきのが、跳ね除けた男の話なんだな」
じゃあ、なにもなくないじゃないか、と責めるように言う。
「いや……襲われたって感じでもなかったので」
「それは、合意でってことか」
「跳ね除けたって、今、言いませんでしたっけ?」
と喧嘩腰になってしまう。
「はいはい、そこまでそこまで」
と茶碗を手に克己が割り込んできた。
「過去の話にこだわらないの。
しょうもない。
この歳になって、過去になにもないってのもつまらないでしょ」
それこそ、偏見だ、とは思ったが、せっかくかばってくれたので、反論はしなかった。
「あの、水沢さん、今度、今朝の話を――」
「そうだね。
今度、二人きりのときに、ゆっくりとね」
また、そんなこと言って誤魔化そうとして、と睨むと、克己は、夏目に向かい、
「お前もさー。
そんなことより、今の心配をした方がいいよ」
と言い出す。
たぶん、専務のことを言ってるんだな、と思い、ひやりとした。
シンクに茶碗を置いた克己がこちらを見て、にんまり笑う。
ああ……困った人に知られてしまったな、と思っていた。