禁断のプロポーズ
「うちの人間がたいした理由もなしに辞めると、そういうこと言われるのよ」

 愛人関係で揉めて、という意味だろうか、と思った。

「それか、横領か、とかね」
「なんで、横領なんですか?」

「過去、何度か、そういうことがあったからよ。

 此処に入って、みんなにちやほやされて、偉い人も自分の言うことをホイホイ聞いてくれたりしたら。

 金銭感覚とか狂っちゃうんでしょうね」

 他人事のようにそう灰原は言った。

 まあ、彼女にとっては、他人事なのだろう。

「横領とか可能なんですか?」
と訊いた清水に、灰原が、

「なによ。
 あんた、やろうってんじゃないでしょうね」
と笑う。

「違いますよー。
 とてもそんなこと出来るとは思えないんですが」

「そりゃ、まだあんたがなんにも任されてないからよ。

 頑張って。
 あんたの代は、あんただけなんだから」

「あれっ? 未咲も居ますけど」

「あれは結婚退職でしょう。
 遠崎課長はもっと上へ行く人よ。

 社長になるかもしれないし。
 そんな人の奥さんが、この愛人課に居るわけないじゃない。

 面白い子だったのに、残念ね」
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