禁断のプロポーズ
「伶奈さんと志帆さん、横領の疑いがあった時期に、同時に辞めたから、どっちだろうって言われてましたよね」

「でも、伶奈さんはーー」

「もうやめよう、この話」
と灰原が言い、みんながガサガサと片付け始める。

 やばい。

 未咲は引き出しにあった携帯と財布だけ掴んで、そっと外に出る。

「そういえば、さっき、やけに気にしてましたよね。

 未咲が……」

 ええっ。
 なにっ。

 気になるっと思ったが、もう戻れる状態にはなかった。

 うう。

 なんだったんだろう。

 結局、ロッカーの鞄は取れなかったな、と思いながら、携帯を開いてみたが、着信はなかった。

 智久さんが、こんなに遅れたのにかけて来ないだなんて。

 薬が効いて寝てるとか?

 まあ、やかましいから、忘れがちだけど、今日、刺されて、手術したばっかりだもんな。

 麻酔切れた直後で、あの喋りは驚異的だ、と携帯を見ながら、エレベーターのボタンを押したとき、背後に誰かが立った。

「お疲れ様でーす」
と反射的に言ったあとで、はっとする。

 まずい。

 見つかっちゃった。

 智久さんのこと、訊かれるかもっ、と身構えたのだが、そこに居たのは、秘書室の人間ではなかった。
< 392 / 433 >

この作品をシェア

pagetop