禁断のプロポーズ
「同期の誰ですか?」

 敢えて、そこで続きを促すと、灰原は、
「もう居なくなった人よ」
と流してきた。

 居なくなった人、ね。

 今、彼女らが言った相手がおねえちゃんかは知らないが。

 もし、そうだとしたら、周りも夏目と姉のことは怪しいと思っていたわけだ、と思う。

「はい、おしゃべりはそこまでよ。
 みんな、持ち場に戻って」

 灰原の仕切りで、はーい、と彼女らは、つまらなさそうに声を上げた。

 どさくさ紛れに、失礼します、と頭を下げていこうとすると、灰原に首根っこ掴まれる。

「な、なんですか」

 灰原は顔を近づけ、
「あんたは、さっき言われたことをよく熟考して、行動に移しなさい」
と言う。

「りょ、了解です。
 あの、灰原さん」

「なによ」

「めちゃくちゃいい匂いがしますね、灰原さん」

 これぞ、大人の女、という香りがした。

 香水だろうか。

 莫迦ね、と灰原は赤くなり、手を離した。

 こんな美人が間近で、こんないい香りを漂わせていたら、克己でも、くらりと来そうだが。

 そこで、ふと、遠崎課長には、来て欲しくないな、と思ってしまった。
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