能あるイケメンは羽目を外す
目を見開いたまま、私は金縛りにあったかのように動けなくなる。

うそ……。どうして彼がここに?幻でも見ているのだろうか?

私は驚きで声も失った。

一瞬目が合って彼がニコッと私に微笑むが、彼は私を見ても驚いてはいなかった。

呆然としながら陽斗をじっと見つめるが、彼は落ちた書類を拾い上げると私に微笑みながら手渡した。

まるで今初めて会った相手かのように……。

「はい。ちゃんと前を見ないと危ないよ」

口調は優しい。でも……陽斗であって陽斗ではない。

顔は笑っててもその笑顔は作り笑いに似た感じで……何の感情も読み取れない。

昨日の彼とは違う。

でも、陽斗の顔を見間違える訳がない。

彼は何事もなかったかのように私から離れ、隣にいた背の高い男性と話をしながら歩き去る。

隣の男性は……秘書室長で専務秘書の杉原さんだ。
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