Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
母親がそう言ってくれても、遼太郎は何も言葉は返せず、ただ頷くことしかできなかった。それでも、母親を心配させまいと、少し薄い笑顔を作った。母親も自分とよく似たその笑顔を見て微笑み、手を振って駅の改札の向こうへと消えて行った。
遼太郎は寂しさのあまり、すでに東京に来ているだろう二俣に連絡をとってみようかと思ったが、……止めた。
この空虚感を誰かの慰めで埋めてしまってはいけないと、無意識に感じていた。自分の中のことは、自分で解決しなければならない。これは、自分が大人になるために、ここで最初に課せれた試練なのだと思った。
新学期が始まり、入学式も終わって、芳野高校にも新しい日常が始まった。
まだ中学生の様相を匂わせる初々しい1年生をよそ目に、みのりが向かうのはもっぱら3年生の教室。
今年度は3年部の副担任に納まったみのりは、3年生全ての日本史選択者を担当するという重責を担わされている。対外的な模擬試験などで、芳野高校の日本史の偏差値が低い場合、それはみのりの指導の仕方がまずいということになる。
けれども、辛うじてクラス担任の責は免れたので、教科指導に専念できる立場にあった。