Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
かつて澄子が担任をし、遼太郎をはじめ二俣や衛藤、宇佐美や平野がいた3年1組は、今年は国立文系クラスとなり授業の雰囲気もガラッと変わってしまった。推薦組の緩い空気はなく、まだ4月だというのにセンター試験に向けてピリッとした緊迫感がある。
その雰囲気の中で、みのりはただ授業をする。淡々と…ではなく、情熱を込めて。
〝歴史〟という科目を、生徒たちにただの暗記科目だと思ってもらいたくなかった。人々の営みが紡いできた本当にあったドラマだということを感じてもらいたかった。そして、そのためには、自分の持っている力の全てを注ぐつもりだった。
……かつて、遼太郎にそうしてあげたように。
そうやっていれば、みのりの中心にある冷たく固まったものを意識しなくてすむ。その哀しみと苦しみに対峙すると、日常生活さえままならなくなると、みのりは自覚していた。
精神の安定を保ち続けるためには、めまぐるしく押し寄せてくる目の前のことだけに意識を向けて、それに没頭するしかなかった。
箏曲部の練習の様子を見に行って、職員室へ戻る際、〝あの〟犬走りを通りかかったときのことだった。辺りをオレンジ色に染め上げる源に目をやると、春の日の夕陽が、1年前と同じ山の稜線に消えていくところだった。