Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



「あっ!体育教官室に江口先生を呼びに行くところだったんだ!」

「あら、じゃ、早く行かないと!」

「それじゃ、みのりちゃん。」


 そう言葉を交わして駆けていく愛の身のこなしは、さすが二俣の妹だ。マネージャーにするにはもったいないほど軽快なものだった。


 愛の後姿を見送って、みのりは胸に手を置いて深く息を吸った。


――……大丈夫。私はこうやって生きていける……。


 恋い慕う人と添い遂げることだけが、人生の全てではないはずだ。
 愛しい人の幸せを願って、遠くから見守りながら、自分自身の人生を生きていくのも、幸せのかたちの一つだ。


 幸いにも、自分にはやりがいのある仕事がある。
 〝学者になる〟という本来の夢ではなかったけれど、可愛い生徒に囲まれ必要とされるこの場所が、自分の本当の居場所なんだと、みのりは思った。




 入学式を終えた遼太郎の毎日は、めまぐるしかった。
 何事も高校とは勝手が違う大学で、周りに手取り足取り教えてくれる人もいない中で、その生活は始まってしまった。


 第一、大学の敷地内にはいくつも高層の建物があって、講義を受けるためにはどこに行かねばならないのか…というところから迷ってしまう。講義を受けることに際しても、簡単なガイダンスがあっただけで、その取り方も手探り状態だった。


< 162 / 775 >

この作品をシェア

pagetop