Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「あっ!体育教官室に江口先生を呼びに行くところだったんだ!」
「あら、じゃ、早く行かないと!」
「それじゃ、みのりちゃん。」
そう言葉を交わして駆けていく愛の身のこなしは、さすが二俣の妹だ。マネージャーにするにはもったいないほど軽快なものだった。
愛の後姿を見送って、みのりは胸に手を置いて深く息を吸った。
――……大丈夫。私はこうやって生きていける……。
恋い慕う人と添い遂げることだけが、人生の全てではないはずだ。
愛しい人の幸せを願って、遠くから見守りながら、自分自身の人生を生きていくのも、幸せのかたちの一つだ。
幸いにも、自分にはやりがいのある仕事がある。
〝学者になる〟という本来の夢ではなかったけれど、可愛い生徒に囲まれ必要とされるこの場所が、自分の本当の居場所なんだと、みのりは思った。
入学式を終えた遼太郎の毎日は、めまぐるしかった。
何事も高校とは勝手が違う大学で、周りに手取り足取り教えてくれる人もいない中で、その生活は始まってしまった。
第一、大学の敷地内にはいくつも高層の建物があって、講義を受けるためにはどこに行かねばならないのか…というところから迷ってしまう。講義を受けることに際しても、簡単なガイダンスがあっただけで、その取り方も手探り状態だった。