Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
その男子は会話が途切れても立ち去るわけでもなく、ニコニコとして遼太郎の隣にいる。気色が悪いので、遼太郎の方が場所を変えようとした時、その男子の方から口を開いた。
「僕、樫原猛雄って言うんだけど、君、担当教官は川谷教授だよね?僕も一緒なんだ。」
新入生はまだゼミには入っていないので、便宜的に学籍番号でクラスを分けられ、学部内の教授や准教授を指導教官として割り当てられていた。
「ああ、そう。俺は狩野遼太郎。よろしく。」
遼太郎が言葉を返すと、樫原は嬉しそうにいっそう笑顔を輝かせた。
けれども遼太郎は、そんな笑顔を見ても、嬉しいどころか身の毛がよだってしまう。とても、笑い返せる気分にはなれなかったが、気を良くした樫原はお尻を浮かせ座り直し、遼太郎との距離を縮めた。
「今、講義の要覧見てたよね?もう時間割決めた?よかったら、一緒の講義取らない?」
――……冗談じゃない!勘弁してくれよ!!
心の中でそう叫んで、遼太郎はベンチを立ちたくなった。けれども、樫原のあまりに罪のない笑顔を見て、無下に邪険な態度も取れなくなった。
「一般教養と言っても、どれを選択していいってわけじゃなくて、やっぱり環境学部の教官が担当している講義を取った方がいいって知ってた?」