Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「おー!猛雄ー。猛々しいオスの猛雄くーん。」
遼太郎と樫原が、英語の講義に行くべく並んで歩いていると、後方から声をかけられ、猛雄がビクッと身を固めて振り向いた。
遼太郎はそのまま先に行ってしまうことが頭を過ったが、そうする勇気も出なかった。
樫原と同じように声の主を見遣ると、中肉中背の眼鏡をかけた男が大股で追いかけてきている。
「もう!晋ちゃん!その呼び方やめてって言ってるでしょ。」
樫原はそう言って怒っている風なのに全く迫力はなく、怒られているその男も悪びれる様子はない。
「今日は見かけないと思ったら、こんなところにいたのか?」
と言いながら、その男は、いち早く遼太郎の存在に気づいて、目を丸くした。
「お!こちらさんは?」
「こちらは、同じ環境学部の狩野くん。さっき友達になったんだー。ね?」
「ね?」と確認されても、遼太郎には友達になった覚えなどないのだが、樫原の感覚では、あれで友達になったことになるのだろう。
しょうがなく、遼太郎はその男に目を向けて、軽く会釈をした。
「俺は、佐山晋也。俺も環境学部なんだ。よろしく。」
と、佐山はスッと片手を出した。釣られて遼太郎も片手を出して、ごく自然な流れで握手を交わす。
しかし、手が触れ合った瞬間、遼太郎の中に佐山に対する疑惑が渦巻き始める。