Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「ねえさんがそうやってコーヒー淹れてくれるの、久しぶりだなぁ…。」
みのりが細口のコーヒーポットを持ち、ドリッパーへとお湯を注ぐのを眺めながら、古庄がしみじみと言った。
言われてみて、みのりは、最近コーヒーを淹れて飲む余裕さえなかったことに気付かされる。
慌ただしい毎日の中で、ホッとこんなふうに気持ちを抜く時間というのは、実はとても大切なのかもしれない。
遼太郎を意識しないために、みのりはただただ必死で仕事をしていた気がする。そこにある余裕さえも埋めてしまうほどに…。
いつも自分を追いつめて、張りつめている気持ちの状態だから、少し遼太郎が過っただけで必要以上のダメージを受けてしまうのかもしまうのかもしれない。
こうやってホッと一息つける時間を作って、少し気持ちに緩衝できる余裕を作れば、もっとしなやかに生き易くなるかもしれない……。
鼻孔をくすぐるコーヒーのいい香りを楽しみながら、お湯を注がれて膨らむコーヒーを見つめて、みのりはそんなふうに考えた。
「さあ、できましたよ。」
古庄のカップにコーヒーを注いで差し出すと、古庄は一口それを含みニッコリと笑った。
「やっぱり、ねえさんが淹れてくれるコーヒーが美味しいんだな。自分で淹れても、こんな味にはならないから。」
これを聞いて、みのりも鼻から息を抜いて笑う。