Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



……けれども、そこには誰もいなかった。

 窓もカーテンが引かれたままで、その隙間から明るい日射しが射し込んで、空中の埃がキラキラと輝いている。


――…もう、作業は終わったのかな……?


 室内に立ち尽くして、みのりがそう思った時、背後のドアがバタンと音を立てて閉まり、ガチャリと鍵をかけられた。


――……え……?!


 みのりが目を丸くして振り返る。
 そして、そこにいた人物の口髭が、見開いた目に映った瞬間、みのりの全てが凍りついた。

 驚きも何も、しばらくは声にもならず、ただお互いの視線が絡み合った。


「……石原先生……。」


 ようやくつぶやくように、みのりが声をかけても、そこにいた人物、石原は何も言わずにじっとみのりを見つめている。

 見つめられているだけで、みのりは見えない縄で縛りあげられているように感じた。
 いたたまれなくなって、言葉を続けるしかない。


「…今日の研究授業にいらっしゃってたんですか?」


 石原にとってもこの芳野高校は、かつて知ったる前任校で、小会議室の鍵のありかも知っているはずだ。
 しかし、石原はその問いには答えず、微笑みも見せず、ただみのりを見つめ続ける。何か次の言葉を探そうにも、みのりはその眼差しに怯んでしまい、動かしかけた唇を引き結んだ。


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