Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
何よりも、あんなふうに自分の体の底から湧きだすような、愛しいと思える感情を伴わなくては、彩恵には触れられない…。
そんな無意識な思いが、遼太郎の体を硬くさせた。
それでも、消沈する彩恵の様子を目の当たりにすると、遼太郎はいたたまれなくなって、何か気持ちをほぐすための言葉を探す。
「…また、時間のある時にゆっくり、お邪魔させてもらうよ。」
その遼太郎の優しい言葉に、彩恵は一筋の光を見つけだして、可愛らしく微笑んだ。
しかし、その可憐な笑顔に、遼太郎の心は愛しく思うどころか、いっそう重苦しくなった。
彩恵が改札を通り、人の波に消えてくのを見送って、遼太郎は少しホッとする。そして、おもむろに大学の方へ足を向けた。
もちろん、図書館の貸出期限などは迫っていない。でも、置いたままになっている、自転車を取りに戻る必要はあった。
何とも言いようのない罪悪感が、遼太郎の心を支配した。
彩恵を愛しいと思える感覚がないのに付き合うことも、みのりの言う『いろんな経験』の一つなのだろうか。
…多分みのりは、遼太郎がきちんと彼女と向き合い、心から好きになることを望んでいたはずだ。そうでなければ、あの時別れを切り出したりはしないだろう。