Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 一人の子がコンタクトバッグにボールを持ってぶつかり倒され、別の子が走ってきてコンタクトバッグを押し切ると、更にもう一人の子が走ってきてボールを抱え上げて、ゴールラインめがけて走り出す。

 遼太郎自身、何度も何度も繰り返した練習――。

 選手たちがコンタクトバッグにぶつかるたびに、遼太郎の体の中にあるその時の感覚が呼び覚まされるようだった。体がうずうずして、ラグビーボールに触りたくてたまらなくなる。


 …そう思っていた時、高いフェンスを越えて、ラグビーボールが飛び出してきた。遼太郎は、不規則に跳ねるそれを、追いかけていって捕まえる。


「すみませーん。」


 フェンスの向こう側から、コーチらしき人が遼太郎へと声をかけてきた。

 遼太郎は、すかさず手にあったボールを落とし、地面に着く前に蹴り上げる。ボールは空に向かって高く上がり、フェンスを飛び越えて、コーチらしき人の腕の中へとすっぽりと納まった。


――よし…!


 我ながら会心のハイパント(※)だったと、遼太郎は自画自賛する。


「…あ、ありがとうございました。」


 思いもよらない出来事に、コーチらしき人は目を丸くして遼太郎を凝視した。
 すっきりと気持ちも晴れたような気がして、遼太郎も頭を下げてニッコリと笑い返し、その場を後にした。




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※ ラグビーで、味方に球が回せない時などに、球を高くパントキック(手から離したボールを地面につく前に蹴ること)すること。
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