Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「そうだよ、狩野くん。ひんしゅく買ってる空気も読めないような子。もう!別れちゃいなよ!!」
まるで、彩恵に個人的な恨みがあるみたいに、樫原の言い方にはトゲがあった。
「猛雄!言いすぎだぞ!!別れるとかそんなことは、遼太郎の気持ちが決めることだ。お前のとやかく言うことじゃない。」
ピシャリと佐山に諌められて、樫原は亀が首をひっこめるみたいに小さくなって、遼太郎の顔を見上げた。
「…ごめん。僕、余計なことまで言っちゃった…。」
複雑な表情の遼太郎が、静かに首を横に振る。
「大丈夫。気にしてないよ。それに、茂森さんがあんなふうになるのは、俺に原因があるんだ。」
佐山と樫原は、その、『原因』なるものを聞き出したかったが、色んな思いを含んだ遼太郎の顔を見ると、とても詮索できる雰囲気ではなかった。
彩恵のワガママの奥にある不安が、遼太郎には手に取るように透けて見える。
遼太郎のことが信じられないから、彩恵は不安になる。信じられないのは、愛情を感じられないからだ。
彩恵は〝愛しい〟と思えばこそ出てくる言葉を語られたこともなく、感情を映して自然と出てくるはずの行為…抱きしめたりキスをしたり、そんなことも二人の間では交わされていない。
それどころか、手を繋ぐことさえも、遼太郎は躊躇した。