Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
3月の高校入試も終わった頃、みのりは断ることに疲れ果て、伊納のしつこさに、とうとう観念した。
「分かりました。食事に行きましょう。」
深いため息と共に、その一言を不本意ながら口にした。
その言葉を聞いた瞬間の、伊納の満足そうな笑みに、みのりの背筋には思わず寒気が走る。
「場所は俺が決めるから、君はいつがいいか決めておいて。」
そう言って、色気のあるウインクを向けられると、全身が凍り付いてしまいそうだ。
そしてこの事実は、瞬く間に職員室中に広まって、みのりはまるで伊納の手に落ちたような視線で見られた。
「ちょっと!聞いたよ、仲松T。伊納先生とデートするんだって?」
藪から棒にそう言ってきたのは、藤野由起子という生物の教師だ。
パチンコが趣味という彼女は、さばさばしていてまるで女っぽさはない。みのりと同い年で、今年度3年生の担任を一緒にしている内に親しい仲になった。
「……デートじゃない。ちょっと食事に行くだけだって。」
この話題を持ちかけられると、おのずとみのりの表情も険しくなる。
「ふぅん、でも。伊納先生はデートのつもりみたいだから、気を付けた方がいいよ。」
「……?!気を付けるって、何に?」
由起子に注意喚起されて、みのりはいっそう眉間の皺を深めて、彼女に向き直った。