Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「…じゃ、適当に注文するよ?」
にこやかな笑顔は忘れずに、伊納は手を上げて店員を呼んだ。
そんな伊納は、この場では目立つのだろう。店員はおろか、女性客たちが振り返って見ている。その雰囲気を感じ取って、伊納の振る舞いは、ますますキザになった。
出て来た料理たちも、伊納自身が食べたいものというよりは、女性が食べそうなもの…という感じのものをチョイスしている。
〝余裕のあるいい男〟を演じているみたいだが、その内側では涙ぐましいほどに気を遣っているらしい…。
何気ない話をして料理を食べながら、そんなふうに伊納を観察してみると、なんだか哀れにさえ感じてしまう。
――若い子ならいくらでもダマせるだろうけど…。そもそも、若くて可愛い女の子と付き合ってて、どうして私なんかに構うんだろう…?
それを伊納に訊き出して見たかったが、そんな話題を振ると逆に口説かれてしまうのは、蓮見の時で経験済みだ。
みのりは自分の周りに強固な鉄壁を作り、決してその中に伊納を踏み込ませようとはしなかった。
そんな気持ちでは、話しをしても楽しいわけもなく、美味しいはずの料理だって味わえない。
表面上はにこやかに、でも疲れるだけの苦痛な時間が重苦しく過ぎて行き、1時間と少しが経った頃、伊納が席を立った。