Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 この時、にわかに由起子の言葉が信じられなかったみのりだが、実際伊納はそれ以来みのりを誘うことはなくなった。それどころか、あれほどしつこかったのに、目が合っても話しかけてくることさえなくなった。

 逃げられた〝魚〟を追い求めるのは、伊納の主義に反するのか……。
 みのりは、伊納の露骨な態度の変化に呆れもしたが、ずっと苛まれていたしがらみから解き放たれたような気がして、ひとまず安堵した。



 そして年度末も押し迫り、離任式の日を迎えた。

 みのりよりも1年先に新採用で芳野高校に赴任してきた古庄も、この日離任することになる。

 古庄はみのりと同じ地歴科の教員として、同じ3年部の担任団として、この激動の1年間、苦楽を共に乗り越えてきた仲だ。

 歳も近く共通点が多いこともあって、生徒たちから何かにつけてその仲を怪しまれていたが、出会った時からみのりは、一度だってそんな気持ちを抱いたことはない。
 けれども、彼はみのりのことを、親しみを込めて「ねえさん」と呼び、気心知れた仲間であることも確かだ。

 その古庄がいなくなってしまうことに、喪失感を感じないわけではない。


 有名ホテルの宴会場で行われる全職員による送別会の後、学年部で行きつけのスナックに落ち着いて、みのりはやっと古庄と話をすることができた。


< 409 / 775 >

この作品をシェア

pagetop