Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



俊次とその母親の前で、取り乱すことだけはできない――。

 その一心だけで、みのりは必死で気持ちを張りつめて平常の自分を演じ、挨拶もそこそこに遼太郎と俊次の家から逃げ出した。



 車に飛び乗り、どこをどんな風に運転して帰ったのか…。
 アパートの階段を駆け上がり、熱気が充満した自分の部屋へ入ったと同時に、自分の中に押し留めていたものが決壊して溢れ出てくる。


 涙と嗚咽が一気に押し寄せてきて、みのりは靴も脱げないままで崩れ落ちた。

 記憶の中の遼太郎をたどる…。そうやって穏やかな想い出にしようとしていたことが、根本から覆されてしまった。


 遼太郎本人に会ったわけでもなく、ただ抜け殻のような部屋に入っただけなのに、息もできないくらいに苦しくて苦しくて、心も体も引きつり痙攣して、自分がどうなっているのか分からなくなる。


――…こんなに苦しい想いを、『好き』っていうのかな…?


 心が甘く切なく痛むのではなく、心が押し潰されそうなほど、ただ苦しいだけ。これではまるで、遼太郎という見えない亡霊に取り憑かれ、苦しめられているようだ。

 そんなふうに思ってみると、ますます涙が溢れてくる。


 その人を想うことから力をもらい、その人を心に宿すだけで優しい気持ちになる…。人を恋い慕うことは、そんな温かい幸せに浸れることのはずだ。


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