Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
学校内では幾分涼しい渡り廊下だが、そこからエアコンの効いた職員室へと足を踏み入れると、やはりスッと汗が引いていくのが分かる。
2年部にある自分の席に落ち着いても、夏休みの今は、取り立ててしなければならない急ぎの仕事もない。頬杖をついてぼんやりと、みのりは先ほどの俊次とのやり取りを思い出した。
確かに、俊次にだけにこうやって個別指導をしているのは、不自然なのかもしれない。
もう十分に、俊次一人で課題を進める力はついてきているから、もう個別指導はやめてもいいのかもしれない。
個別指導を止めることを考えると、俊次の向こうにいる遼太郎の姿が思いをかすめる。この件に関して遼太郎は全く関係がないのに、何よりも大きなカギを握っているのは遼太郎の存在だった。
遼太郎の弟である俊次が自分にとって〝特別な存在〟であるように、俊次にとって自分も〝特別な先生〟であり続けたい…。
みのりの中にあるそんな無意識の思いが、この不自然なことを続けさせていた。
みのりは机に肘をつき、額に手を当てて、うつむいた。
遼太郎を意識してしまうと、どうにもできない苦しさがまた込み上げて来て、滲んでくる涙を押し止めるようにきつく目をつぶった。
――いつまで、こんなことを繰り返さなければならないのだろう……。