Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 思わず、遼太郎を連想してしまったのは言うまでもないが、どちらかというと日本史の教師としての好奇心の方が強かった。閉館まであまり時間はなかったが、みのりはほとんど無意識にその博物館へと足を踏み入れていた。

 少し殺風景な展示室にはあまり目玉となるような展示物はなかったけれど、東京の地理に基づいた環境問題の歴史的変遷をうまくまとめていた。
 展示を見ながら、みのりは一冊の本を思い出した。卒業レポートで遼太郎が使った本。あの『環境の日本史』という本は、遼太郎に譲ってしまったが、遼太郎はまだあの本を持っていてくれてるだろうか……。


 そんなことを思いながら、展示室から物販コーナーの部屋に入ってみる。博物館の図録などは、こんなところでなければ手に入らないものも多く、みのりはそれらを丹念に見て回った。

 そして、専門書のコーナーのところで、あの本を見つけた。今まさに一人の男性がそこに戻した一冊の本が、浮かび上がって見えた。まるで引き寄せられるように、みのりの腕はその本に伸びて、手に取ってみる。


 その瞬間、とても不思議な空気に包まれた。まるで、芳野高校のあの犬走の渡り廊下にいるみたいに愛しくて懐かしい感覚……。その感覚をもたらす源を探して、みのりの視線がさまよった。


< 563 / 775 >

この作品をシェア

pagetop