Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「そうだ。狩野さんの周りに、日本史が得意な女の子、いませんでした?」
身を乗り出して、真剣な表情になって、陽菜がさらに尋ねてくる。質問の真意が分からず、みのりは首を傾げた。
「狩野さんの昔の彼女、日本史に詳しかったって聞いたんで。」
付け足してそう言った陽菜の言葉に、みのりの〝教師の仮面〟が一瞬剥がれ落ちてしまう。浮かべていた微笑みが消え、正面に座る遼太郎の表情を、思わず確かめてしまった。
その遼太郎の眼差しが、切なさの影を帯びる。目が合ったこの瞬間に、二人の間には、かつて共有したかけがえのない大事な時間がよみがえっていく。
「先生は、その彼女のこと何か知りませんか?」
問い直されて、みのりは我に返って陽菜へと視線を合わせた。
「さあ?どうだったかな?私が教えている中じゃ、狩野くんが群を抜いて一番優秀だったんだけど。そもそも、狩野くんに彼女なんていたの?」
思い出すたびに体が痺れて震えが走るようなキスを、遼太郎と交わしていたのは、誰でもない目の前にいるこのみのりだ。こんなしらじらしいことを言ってのけるみのりを、遼太郎は複雑な気持ちで見つめた。
「ええ、いたらしいんです。どうも、大学に入ってからの彼女じゃないみたいだし。」
サラダをパクパク食べながら、陽菜がその事実を暴露すると、みのりは少し意外そうに目を見開いた。