Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
「……狩野くん。大学生になって、彼女がいたの?」
どちらに向けられたものかは、はっきりしない問いだったが、遼太郎は憮然として口を開かず、代わりに陽菜がそれに答えた。
「そうなんです。こんな堅物そうに見えるのに、一年生のときと二年生の時に、いたんです。一年生の時の同級生の彼女は、とっても可愛い人なんですよ!」
調査が得意な陽菜にしてみれば、遼太郎の過去の彼女のことを調べることも容易(たやす)かったはずだ。きっと、陽菜に気を許している佐山あたりから聞き出したのだろう。
過去の彼女のことは、みのりから出された〝宿題〟をやっただけのことだ。いつかはそれを、みのりに知らせなければならないことなのに、今はこのことを話題にしたくなかった。
「……そんな、俺の昔の彼女の話なんて、今、先生にしなくたっていいだろ?」
遼太郎は否定することなく、憮然な表情のまま怪訝そうなため息を漏らして、取り分けられたサラダを矢継ぎ早に口に放り込んだ。
そんな遼太郎を見て、みのりはつくづく思い知った。自分はもうとっくの昔に、遼太郎にとって〝過去の存在〟になっていたのだと。
遼太郎は、大学という場所でたくさんの出会いを得て、その中から心を通じ合わせる存在を見つけていた。