Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜
〝食事をする〟という和やかな、それでいてもどかしい時間から遼太郎が解放されたのは、八時になろうかという頃だった。
店を出て、やっとみのりと二人きりになれると思った矢先、遼太郎はみのりから釘を刺される。
「狩野くんは、彼女をちゃんと送ってあげなきゃね。」
意識の片隅にもなかったことを突然言われて、遼太郎は思わず陽菜にチラリと視線を投げた。
今までだって、遼太郎が陽菜にそんなことをしてあげた覚えもないし、そんなことをしなければならない義理もない。しかし、こんなことを言い出すあたり、やっぱりみのりは、陽菜のことを遼太郎の〝彼女〟だと思い込んでいるようだ。
「それじゃ、近くの駅まで送ってください。」
みのりの後押しがあるのをいいことに、陽菜も調子に乗って、嬉々とした笑顔を遼太郎に向けた。
――冗談じゃない!
と、心の中で異を唱えたことを、遼太郎はそのまま口から放ってしまいたかったが、〝先生〟の言うことに真っ向から口答えはできなかった。
そのやり取りは軽く受け流すことにして、遼太郎はみのりの方に話を振った。
「……先生はこの後、予定があるんですか?」
やっぱりどうしても、これからみのりと二人きりになって話がしたかった。なんとかしてみのりの誤解を解いて、今でもずっと想い続けていることを伝えたかった。そして、これまでのこと、これからのことをきちんと話しておきたかった。