Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 ぼんやりと講義を聞いている最中や、佐山や樫原と他愛のない話をしているとき、バイトでゴミの掃除をしているときなど、前触れもなくそれは意識の表面に浮き出てくる。

 唇を滑らせたその肌の、柔らかさと滑らかさ。狂おしいほどに唇を重ねたときの息遣い。

 意識するのはどれも断片的なものだけれども、そのたびに遼太郎の血液は逆巻き、息が止まる。そして、甘い感覚が通り過ぎてくれた後は、どうしようもなくみのりに会いたくなる。

 でも、まだ〝あの日〟から一週間しか経っていない。帰省してみのりに会いに行ける年末までは、まだまだ遠い。その時の長さを思うと、遼太郎は気が遠くなりそうになる。

 逆に、それまでにやらなければならないことはたくさんあった。年が明けると就職活動の本番は、もう目前に迫っている。それを考えると、年末までにあまり時間はないと感じる。


 恋しさと切なさと、焦りと、遼太郎は幾度となくそんな感情を繰り返していた。これは、みのりと別れていたときとはまた違った、遼太郎の新たな苦悩だった。



 苦悩を抱えていたのは遼太郎だけじゃない。みのりも遼太郎と同じだった。

 抱き合っているとき、体中の細胞の一つひとつが反応してしまうような、あんな感覚は今まで経験したことはない。会えないにもかかわらず、何年も想い続けた人との触れ合いは、意識の中に深く食い込んで、何度もその感覚を思い出しては確かめてしまう。


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