Rhapsody in Love 〜幸せの在処〜



 みのりがどれだけ苦しんだのか。それを思うと、遼太郎の体が震えた。みのりは、遼太郎が想像も及ばないくらいの苦痛を味わったはずだ。

 それなのに遼太郎は、血を流し続けるみのりを前にして何もできなかった。何も、自分で判断して動くことができず、ただ幼い子どものようにオロオロして、苦しみの中にいるみのりが指示してくれたことをやっただけだった。

 あまりの情けなさに耐えかねて、きつく唇を噛む。
 陽菜がこんなことをしてしまった原因を作ったのは、誰でもない自分だと、遼太郎は自分を激しく責めた。


「……先生。俺のせいで、こんな……。」


 頭を抱えてうなだれて、みのりの眠るベッドへと肘をついた。

 みのりの言ったように最初に陽菜に謝っていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。
 たとえ傷つけてでも、もっときちんとケジメをつけて一線を引いていれば、陽菜を〝その気〟にさせてしまうこともなかったかもしれない。
 こんなことが起こってしまうことを、樫原は忠告してくれていたのに、遼太郎は軽く考えていた。樫原の危惧が今現実となって、遼太郎ではなくみのりの身に振りかかってしまった。


 しばらくして、看護師が様子を見にくる。


「安定しているようですが、もし何か様子が変わったら教えてください。」


 そう言われて、悲痛な表情のまま遼太郎はうなずいた。


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