あの日のきみを今も憶えている
「やばい、楽しみだな」


書き込みで黒ずんだレポート用紙を覗き込んで園田くんが笑う。


「夏休みの、最後の思い出だもんね」

「おう!」


途中、穂積くんがトイレに席を立った。
二人きりになった私たちは少しぬるくなったジュースを飲みながらキャンプの打ち合わせをする。


「なあ、ヒィ」


と、ふいに園田くんが声音を落とした。


「ん? なあに、園田くん」

「美月がこんなことを言い出したのは、何でなんだ?」


笑顔が、凍りついた。


「美月があんな風に妙に張り切ってるときは、辛いときなんだ。
キツイの見ないようにして無理すると、あんな感じになる」


下を向いていた園田くんが、私を掬うように見た。
その、探るような目に射抜かれて体が強張る。
言葉を、呼吸すら見失った。


ああ、美月ちゃん。
園田くんは、美月ちゃんのことを、とてもとても、よく分かってる。
下手な嘘がつけないくらいに。


「……えっと、白状すると、実は、私が行きたいって言ったんだ」


無意識に、口を動かしていた。
園田くんが、驚いたように口を開ける。


「は? ヒィが?」

「そう。あの、私、実はそういう友達との夏の思い出って全然なくて。
そんな話をミィにしたら、あたしに任せて、って……」


モグモグと言う。すると、園田くんは「そうなのか」と呟いた。


「うん。今まで、本当にそういう経験なくて、さ」


そっと俯く。
それは、恥ずかしい告白をしている照れでは、ない。

園田くんに、私の嘘を見抜かせないため。


私は、美月ちゃんと一つだけ約束をした。

約束とは、彼女がこの世から消えるその時まで、園田くんに事実を告げないこと。
別れを、感じさせないこと。


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