溺愛ドクターは恋情を止められない
「今日は大変だっただろ」
「はい。あの、あの子は……」
早速、虐待されていた男の子の話になって、身を乗り出すと、「ホントに仕事熱心なんだね」と言われてうつむいた。
仕事だからではない。
勝手に気になっているだけ。
こんなこと、ただの事務員が聞いてはいけなかったかもしれないと後悔した。でも……。
「高原のナイスな機転で、あの子は助かったよ。骨折もきれいに治ると思うよ」
「本当ですか?」
思わず笑顔になる。
見ず知らずの患者でも、朗報はうれしい。
ましてや相手は子供。
「ただ、心の傷の方が深いだろうから。それは副院長に任せるよ」
野上の副院長は、心療内科医で、この辺りでは腕がいいと有名な女医。
「そうですね」
この子を通して、治療というものの奥深さを知った気がした。
傷は目に見える部分だけではないのだと。