溺愛ドクターは恋情を止められない
「母を亡くした時……」
「うん」
「この世界に入りたいと思いました」
彼は突然口を開いた私を驚いているようだった。
それでも、カップをテーブルに置き、小さくうなずいてくれた。
「そうか」
亡くなった母のことを詳しく話すのは、きっと初めて。
「母は自分が看護師だったせいか、自分を蝕んでいたガンに気がついていたと思います。そして、その治療の行く末も。オペをしなかったのは、もう手が付けられない状態だと、わかっていたからでしょう。それでも泣き言は言いませんでした」
母がガンを患っていると私が知ったのは、ずっと後のこと。
それまで母は、ひとりで耐えていた。
高原先生は、じっと私を見つめ、視線をそらさない。
「ただ、一言。延命はいらない。最期はきれいに逝きたいと私に訴えました」
あの時の母の苦しそうな顔は、今でも容易に思い出すことができる。